築50年以上は経つであろう二階建集合住宅の解体が突然始まった。
日の当たらない路地にあり、
住人のお婆さんがしょっちゅう2人並んで玄関先に腰掛け、散歩で通りかかると
チワワを見ては、「かわいらしいねぇ」ニコニコ言ってくれていた。
野良の黒猫のために欠かさずフードが置かれていた。
ある夜、お爺さんが手押し車を入れるのに戸口で四苦八苦していた。
人も斜めになって入るような幅の狭い引き戸だ。
母親もよく苦労している。
両手にリード持ったままワンコ2匹連れてんのに、
どうやって手伝うんよ、、、と思いながら「手伝いましようか?」と声をかけた。
「いえいえ!大丈夫ですよ!有難うございます」
お爺さんは頭をさげ笑って言われた。
1人暮らしの後期高齢者たちはどこに行ったんやろうか。
黒猫はどこへ消えたんやろうか。
爆音をたてる解体現場の前を通りながらいつも考えていた。
晴天の日、外壁が無くなった伽藍洞の家の中は暗い続き二間があった。
玄関から二階直結の実家より狭く急こう配の階段もあらわだった。
ここいらに増えてきた小洒落た戸建てが建つかな、、、と思っていたら
ブロック数段が盛られ、上に背の高い立派なフェンスで更地は囲われた。
鉄塔でも建つのかな、、、と思っていたらフェンスの内側沿いに植樹がされた。
とても謎なゾーンになった。
お爺さんは、お婆さんたちは、、、、
明るいところに住んでいるのだろうか。
すべてが幻だったような、悲しい民話を聞いた後のような、
さみしい気持ちになるので夜は通らないようにしている。
黒猫を一度だけ見かけた。
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