20代の時チャイムを鳴らしたら玄関の真上の二階の窓から父が見下ろした。
「あ、あたしだ」と思った。
見られたくない角度のあたしだった。
私は目も鼻もくちびるも父と同じ。後頭部の形だけ母と同じだ。
37歳、分娩台で娘に対面した時の事は昨日のようだ。
「二重はどこ??」
酷くむくんでいるマブタを赤くなるまでめくり上げた。
夫の父は息子にそっくりだと喜び、
「ようこちゃんの家系には全く似てへんなあ」と嫌なことを言った。
娘は小学生高学年にもなると、私の二重の目をガン見し始めた。
目玉を左右に動かして。そんな日は予測していた。
メイクをせまがれアイラインを入れてやり、
「一重でも充分キレイやで」と言ったものだ。
「うえから見ていたらおかあさんを見つけておりてきた」
幼児のころ娘は言った。
自分で選んだんやから、そら仕方ないなあ、、、
中学生になりビューラーの形をした二重矯正で努力の結果二重になり、
高二の二学期からメイクをして通学し始めた。
丸かった鼻の穴と鼻先もとんがり始めどんどん顔が変わってきて、
“お母さんに似てるね”と言われるようになった。
二十歳を過ぎロングヘアをなびかせ自転車をこぐ娘の後ろを走った時、
過去の自分を追いかけているようで妙でヘンで複雑な気持ちになった。
娘は子供時代の写真を見たがらない。
一重でもかわいかったのに“黒歴史”だから見ない。
お風呂上りにオールインワンを塗り付けている時、
鏡にうつる『あたし』にはいつも父親が入っている。
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