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そろばん

  • YOKO
  • 2022年11月22日
  • 読了時間: 1分

更新日:2023年4月19日






小学生の時珠算塾に通っていた。

冬になると終わると暗い。

少し離れた電信柱に隠れ気味で、

お手製のかぎあみの、紫色の大判ショールをまとって母は待っていてくれた。


ショールを頭からすっぽりかぶされ、

母の手は私の肩にあり、

暗い住宅街を歩いた。

母はよく鼻歌を歌っていた。

月曜日から土曜日の九時から五時まで、

立ちんぼのワイシャツ工場のパートで働き、

夕食作りと後片付けをしてから来てくれていた。


出来合いのお惣菜が食卓に並んだことは一度もない。

洗い物をする時もよく鼻歌をうたっていた。

その後ろ姿を見ながら、お母さんは今きっと幸せなんやろうなあと思っていた。

父が洗い物をする姿もよくあった。


夫婦は助け合っていた。

父は器用なひとだったが料理はからきしダメで、

ウインナーを炒めるのにフライパンから火柱を立てていた。


母はたまの外食で美味しいものを食べると、家で再現していた。

海老やタラコやイカの海鮮パスタはとても美味しく、父の好物になった。

お母さんの作るものが一番おいしいわい。


何回目かの二級検定合格発表の帰り道。

あんな、あかんかってん。

そうか・・・

また頑張ったらええがな。


うそ、ほんまは受かってん。


母を見上げ、笑いあった。

うそを言った事が照れくさかった。


冬の夜の、世界一幸せな母娘だった。



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