サムライ
- YOKO
- 2023年1月24日
- 読了時間: 3分
更新日:2023年1月31日

客室清掃は、きつい。汚い。気持ち悪い。
ディスコで踊った曲を聴きながら通勤した。
布団をめくると大人の脱糞があった。
シーツごと丸めて破棄した。
ゴミ箱の底にピンクのチューペットがあって、
よく見ると使用済み中身入りのコンドームだった。
素手でつかむ寸前だった。
どちらの国の方か、ゴミ箱にゴミを見事に入れない。
窓を開けても消えない、内臓で一晩発酵された
恐ろしいニンニク臭。
便器の横に飛び散っている茶色いもの。
シャワーカーテン閉めずに豪快にシャワーを浴びた後のバスルーム。
ちから一杯こすっているトイレブラシがはねた汚水が顔を直撃した時は、
辞めたい、、、と思った。
得体のしれない紫色のドロドロしたもの。
風呂の流しに詰まっている長い髪の毛と垢の固まり。
ビニール手袋は髪の毛が取りにくいし、
ベットメイクもやりにくいので素手でしていた。
タオル類と浴衣をバスタブに入れる丁寧な方もいる。
部屋から丸聞こえの女のあえぎ声。あれはテレビよと同僚が教えてくれた。
夏は顔からしたたり落ちる汗がシーツに落ちた。マスカラ落ちて帰りはパンダ目。
ドアを開けた瞬間に分かる。
あたりかはずれか。
備え付けのメモにメッセージを残す人もいる。
「就職活動で初めて大阪に来ました。とても快適に過ごすことが出来ました。有難うございました」
嬉しくてしばらくは持ち歩いていた。
旅先で気持ちよく過ごせた宿に私もサンキューメモを残すようになった。
アパホテルだけどルームメイクはリッツカールトン。
髪の毛一本クレームの元。
クレームを受けるのはフロントだ。
疲れて部屋に入るとマシュマロの様なベッドに引き込まれ倒れこむ。
そんなベッドメイクを極めた。
70代の同僚おばあさん二人には、徹底的に挨拶を無視された。
ある日元気よく挨拶をしてきて、え?と思ったら、
私服の私を宿泊客と勘違いしただけ。バツが悪そうな顔をしていた。
仕上げた部屋のシーツにコーヒーのシミがたくさん付いていた。
あたしが?した?
それはあり得ん。布団に染みないよう早急にカバーをはずした。
こんな絵に描いたような嫌がらせをする人間がいるんや、、、、
腹立つより可笑しかった。
人から嫌われたり疎まれたりいじめられたり無視されたりした経験がなかった。
実直な両親の元、性善説、偽善知らずで生きてきた。
人間の下心も裏側も見る目は持たなかった。
敵、味方、グレイゾーンの概念もない人生を送ってきた。
グレイソーンの術を持てなかったことは致命傷レベルだった。
シーツ事件の翌月予定通り退職したが、
半世紀生きた頃から経験したことのないイジメ、
無視、遭遇したことのない種類の人間たちにメンタルをやられ続けた。
切っては逃げ、切っては逃げ、
いつしか刀を持ち歩く生き方になっていった。
切った己に膿がわく。
さやに収める日が来るのかどうかも見えない。
いつだったか高齢の父が、前のめりで食卓に片手をつき言った。
「こんなんなっても生きていかなあかんねんぞ!ようこ!」
さやの有無さえ分からないまま生きていかねばならない。
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