高校生の時、雨の通学路を悲しい気持ちで歩いていた。
ぬーっと後ろから大きい黒い傘に入れてくれたのは、
物理の先生だった。
先生、失恋したことある?
・・・想いが届かなかったことはある。
ふうん。
「僕はモーニングに行くので」と言って道路を渡っていった。
阪大からの非常勤教師の物理先生は、
ヒョロヒョロ背が高くて手が長く
頭が小さく、
タコっぽかった。
教室に入るなり「僕はいがんでるのが嫌いなんだあー」
だらんとなっているプリントの画びょうを直したり、
食堂のテラス席で雨の日、
軒があるのにトレイを左手で頭にかざして食べてたり。
フランクフルトの薄皮を
無理矢理むいて食べていた。
「先生カワむかんでも食べれるねんで」
一回は教えた。
物理も化学も大嫌いだった。
授業が始まる前から学校指定のダサい黒皮鞄に
体操服を折りたたみ乗せ、枕を作った。
化学の“1モル”という言葉だけ
先生の物真似をしたので覚えている。
3年生最後の物理の答案用紙は半分白紙残り適当。
右下に「先生単位下さい」と書いた。
戻った用紙には紙が破れそうな筆圧の赤ペンで、
『甘い!』
と書かれた。
こんな先生はいつまでも心に残る。
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